司会者:只今から第二部といたしまして、同窓生によるパネルディスカッ
ションを行います。それに先立ちまして、パネリストそれぞれの基調講演
を行うことにいたします。それぞれの教育に対する、あるいは愛光に対す
る私見を述べていただきまして、その後にパネルディスカッションに移っ
ていくことにいたします。まずは27期生酒井直行さんの登場です。酒井さ
んはテレビドラマの脚本を書かれています。お馴染みのところでいきます
と、火曜サスペンス劇場の台本・脚本を書かれていたり、あるいは「忍風
戦隊ハリケンジャー」あるいは小説も書かれています。それから学生のみ
なさんにはゲームソフト「鬼武者」のシナリオと言いますとわかりやすい
かなと思いますが。まずは27期生酒井さんの基調講演をお願いすることに
いたします。

酒井さん:

 27期、酒井です。初めに言わせてもらえば「チクショー、全部言われて
しまった」という感じです。秋山さんに全て言われてしまったので、何を
喋っていいのか……もういいや、喋ることないやと感じではいるのですが
……。私は27期で今年36歳です。ここにいらっしゃる学生の方、父母の
方からすると私がここにいることはあまり良くないかもしれません。なぜ
かというと、私は愛光学園を卒業したにもかかわらず大学には行っていま
せん。父親が病気で行けなかったというのはあるのですが。秋山先生の駿
台予備校に行ってまして、浪人時代の11月くらいの時に父親が倒れたとい
うことで、大学には行かずにそのまま家業の酒屋を、ここ、県民文化会館
の隣に酒井酒店というのがあったのですが、その酒屋を継いで、23歳くら
いまで酒屋をやっていまして、そういう意味では愛光学園を出たにもかか
わらず、大学に進学しなかった、ちょっと異端児的な人間ではあります。
それがなぜテレビの脚本の仕事をしているかと言いますと、そこには実は、
我が母校愛光学園におけるある一人の教師のある一言が深く影響している
んですね。こういうフリをすると、どんないいことを言われたのかなと期
待されるが、その逆で、確か20歳くらいの時です。卒業後初めて、愛光の
前をお酒の配達で通ったのですが、大学に行っていませんから母校に顔を
出すのはあれかなと思いつつ、友達がサッカーをしているから愛光に来い
と言われて、20歳くらいの時に本当に酒屋の軽トラックでそのまま乗りつ
け、汚い前掛け姿のまま校舎に入りまして、2年ぶりの母校かと思い、職
員室にちょっと顔を出したのです。するとたまたま見知った数学教諭の森
下がいまして、「久しぶりだな」と言うので、「久しぶりです」と答えたわ
けです。「元気にしているか? 何処の大学に行ってるんだ?」と言われ、
「大学には行ってないのです」と答えると「なぜだ」と言われ、理由を説
明すると、そこで何て彼が言ったかというと、「コンチクショー!」と言う
のです。「はっ?」と思ったら、森下が言うには、我が愛光は今まで30数
年間大学進学率100%を謳っているのだ。小学校の6年生たちを集める時
にも、うちの学校に来れば6年間勉強すれば、100%大学に行けると宣伝し
ていると。それどころか東大・早稲田・慶応にみんな行けるのだと。まあ
その言葉には嘘はありませんね。私の27期も全員大学に進学しています。
森下は続けました。「お前、これからでも大学に行く気はないのか?」と。
「親父が倒れて酒屋をしているし、今からでは別に行く気はないです」と
言うと「それは困る」と言うのです。「なぜですか?」と訊ねると「進学率
100%が99.99…%になってしまう、パンフレットに100%と謳えない」と
言うのです。更には、言うに事欠いて、「お前は愛光の恥だ」とまでのたま
ったのです、森下のヤローは。私はこの瞬間にブチッてキレまして「あっ
そうですか」と言った後、「金輪際、愛光学園には足を踏み入れませんし…
…」ここから先は実際には言ってないと思うのですが、「別に大学行かなく
ったって食えるようになってやる」と言ったような言わなかったような…
…。とにもかくにも、そういう思い出がありまして、さっき秋山さんが、
インスピレーションを与える先生に出会って云々というのでいくと、その
数学の森下っていうのは、私は絶対、彼を『先生』とは口が避けても言え
ませんし思ってもないですけど、森下は私に強いインスピレーションを与
えた人間です。そういう意味では感謝はしているのですが……、で、具体
的に、自分は何になればいいのかを真剣に考えたわけです。
秋山先生は、自分が落ちこぼれだったと威張っていましたけど、私も落
ちこぼれに関しては自慢がありまして、250人中243番っていう成績を取
ったことがあります。そのとき思ったのは、この俺よりまだ後ろに6、7人
いるのか、そいつらはいかにバカなのかと思うくらい自分は前向きに考え、
自分はバカだと思わずに下の人間をバカだと思ったんですけれども、そう
いう人間でしたから、理系クラスにいたにもかかわらず数学、理科も全然
ダメだったし、今脚本を書いているぐらいですから、国語は良かったよう
に思われますが、国語も相当成績が悪かったように記憶してます。でもそ
のさっき秋山さんが言われたように、何か俺にも取柄があるんじゃないか
なと思って、たまたまふと思い出したのが、駿台予備校に行っているとき
に、模試があり、そのときの模試で、全国で10万人受け、当然の如く数学、
英語、理科、社会も全て欠点っていうどうしようもない成績だったにも関
わらず、小論文がすごく良かったことを思い出したわけです。そのときの
小論文のお題は今でも覚えていますけれども、「高校野球の思い出」を書き
なさいとあったんです。小論文で高校野球の思い出を書けと言われても、
ウチは硬式野球部ありませんから、思い出なんかないし……困ったなあと
思って、四方のヤツらの答案を覗き込んだら、やはり自分の母校の高校野
球の思い出とか、ちょうど僕らの同じか下くらいに清原、桑田のPLがあっ
たので、そういう思い出を書いているようなんですね。僕は、それらを盗
み見て、そんなネタ書いても面白くないなと思って、高校野球はケシカラ
ンと、あれはもう大人が作ったエンターテイメントで、愚の骨頂だと。春
は毎日新聞、夏は朝日新聞が仕切って金儲けしてるんじゃないかと。それ
でみんな肩壊して、あんなもの、いっそのことやめてしまえばいいんだっ
ていう内容のものを1,200字詰めくらいで書いたら、10万人中で、確か45
番目くらいの成績だったんですね。それをずっと忘れていて、森下のヤロ
ウに「お前は愛光の恥だ」って言われた瞬間に、あっそうだ、俺は小論文
が上手かったなと思い出して、それしか取柄ないんなら、じゃあ、小説家、
脚本家……とにかく物書きになろうと決意したわけでして……それまでは、
脚本家なんて全く興味もなかったですから、そういう意味では森下先生に
は感謝しています。……あ、ついに言ってしまっちゃいましたね、「先生」
って。クソッ。絶対に言うつもりなかったんですけど。
今、私、原稿も何もなしに勝手気ままに喋くってますけど、本当は原稿
作っていたんですよ。それは何かというと、「サラリーマンにだけはなるな」
と後輩諸君に言おうかと思ったのです。つまりサラリーマンになっても山
一證券や雪印のように会社がなくなったりするわけじゃないですか? そ
んなことより僕らのような物を書く仕事だったり、弁護士だったり、医者
だったり……何か手に職を付けていれば、なんとか食べて行けるわけです。
「サラリーマンなんてクソみたいな仕事にはなるなよ」っていうようなこ
とを10分間喋ろうかなと思ったら一週間前に田中さんがノーベル賞を取
って、サラリーマンでものノーベル賞取れるんだ……と、これ違うよと思
って原稿破ってしまって、本当は何も言うことがなかったんです。ただ、
やっぱり先輩として今愛光学園に通ってる方に言いたいことは、6年間別
に勉強って苦痛だと思うし、苦痛で結構だと思うのです。でもそのときに
これが何かの役に立つのか? なんて思わなくていいから、一生懸命興味
を持つ、数学なら数学、物理なら物理と一つの学問をつき詰めて追及して
面白いと思うことを探求して欲しいと思う。僕は20歳過ぎてからテレビの
脚本、小説を始めたのですが、面白いと思ったらとことんまで研究するわ
けです。それまで勉強をしなかった人間が徹夜してまで本を読んで、映画
観て自分がそれを真似て書いてっていうことが苦じゃなくなる、苦じゃな
くことをすればいいと思ってるので、好きなことをしろっていうのを一番
言いたいです。
もう一つは共学になったことを聞いたときにはビックリしたのですが、
男子生徒達に言いたいのは、気安く女の子と付き合うな、悶々としてくれ
と。悶々とするっていうのはすごくいいことで、女の子のことを思って夜
な夜な眠れなくてエロ本を買って、マスターベーションにふける……とい
うような行為っていうのは絶対に大事な行為であって、それによって精神
の昇華っていうのがあるはずなんですね。ですから、それが共学になって、
気安く男と女が付き合うようになって、……まあ、恋愛は必要だと思うの
ですが、想い想われる恋焦がれるっていうのは絶対に必要だけれども、そ
れを気安く中学1年からラブラブで教室の中で手つないで交換日記するよ
うなことをやっていたら、たぶん、ろくな人間にはならないぞというのは、
僕が男子校出身者でその間、彼女がいなかったひがみなのかなと思いつつ、
そんなこんなで時間になりましたので終わらせていただきます。ありがと
うございました。