駆け抜けたぞ、にぎわい

スペイン巡礼、11日間の旅

 

10月発行の「愛光学園同窓会だより」第12号に小泉圭一郎(にぎわい松山地区幹事)が紹介している通り、7年前の「にぎわい/老い駆けて88カ寺」の後継企画「スペイン巡礼の旅」が、にぎわいメンバーの愛光中学入学(1954年)から丸50年の今年、遂に実現した。9月16日から26日まで、9泊11日の長旅。総勢27人の内訳は、夫婦参加12組24人、単独参加2人(池田夫人、桑原夫人)と現地合流1人(ホビノ・サンミゲル)。推定平均年齢??歳(男性に限れば平均63歳ジャスト)の賑やかな集団は、マドリードを起点にスペイン各地を巡り、ほぼ無事故で日本に戻ってきた。

(にぎわいメンバーに限り、文中敬称略)

EU入国

参加者は成田組と関空組の二手に分かれて、スペインに向かった。9月16日昼、成田空港の出発ロビーには、闘病中の金子忠範(元JTB秘書室長)が見送りに来てくれた。予想もしていなかった金子の姿に、成田組は全員いささか驚き、心配もしたが、「元気で行ってこいよ」と逆に励まされ、「土産話を楽しみにしてくれ」とエールを交換。金子を囲んで記念撮影をして機上へ。成田組はアムステルダム(オランダ)でイベリア航空に乗り替え、16日深夜にマドリード国際空港に到着。所要時間はゆうに15時間を超したが、女性陣も含めて全員、疲れた様子はない。

「入国検査では、サイトシーイング、テンデイズと答えて下さい」と添乗の吉田憲司君。

「斎藤寝具店で−す、だな」。

かつて「世界的教養人」を目指した男どもの中から、古いおやじギャグが出る。大きなバッグを載せたカートを押して出口に向かうと、いきなり出迎えの人の群れに遭遇した。93年11月の欧州連合(EU)発足とその後の拡大で、域内に国境がなくなったと聞いてはいたが、どうやら中継地アムステルダムでの旅券チェックが入国手続きのすべてだったようだ。ここでは入管もなければ、税関検査もない。外国人犯罪が社会問題化している国から来ると、あっけないというか、無防備というか。拍子抜けして、あっけにとられていると、脇の方から「よく来ましたね」と満面笑顔のホビノ。関空からパリ経由で1時間前に先着した大内一紀、日野大、森和弘3夫妻とも予定通り、ここで合流して、空港から専用バスでマドリードの都心にある高級ホテル「メリア マドリード プリンセサ」へ。

l   生誕地訪問

9月のマドリードは、真夏だった。最高気温は40度。しかし、湿気は少なく、屋内や木陰は涼しくて快適だ。到着の翌日はマドリード市内のプラド美術館やトレド市内観光で足を慣らし、旅の主目的である、3日目の「にぎわいTシャツ」奉納に備えた。

9月18日(土)午前8時にホテルを出発。マドリードの北175キロにある聖ドミニコの生誕地である、カレルエガ村(ブルゴス州オールド・カスティーヤ地方)に向かった。高速道路(注1)に入り、首都郊外の新興住宅地を抜けると、収穫が終わったヒマワリ畑と小麦畑、収穫期を待つブドウ畑…。そして、またヒマワリ畑、小麦畑、ブドウ畑…。その繰り返しだ。たまにオリーブ園が登場するが、そのどれもが土ぼこりをかぶっているので、どこまでも砂色ばかり。単調で変化がない。「殺風景ね」との女性の声に、車内のほぼ全員がうなずいた。

約150キロの地点で高速道路を降りて、田舎道に入り、午前10時すぎ、目的地のカレルエガ村に。標高900メートルの丘陵地で、冬の寒さは厳しいそうだ。村民の数は周辺部も含めて1000人ぐらいか。休日の朝だから、村の中心にある小さな広場も、雑貨屋が一軒開いているだけで、人影はない。バスを降りて、「カレルエガ教会」に向かう日本人男女の騒がしい集団に好奇心を抱いて、後をつけてくる子供もいない。広場から敷石の坂道を2分ばかり、ゆっくり登ると、村の東端にある教会の前に着いた。

聖ドミニコ教会入り口(クリックで拡大)

二層建て、高さ10メートルほどの石造りの建物から、白い法衣姿のヘスス・マルティネス神父が現れて、われわれを出迎えてくれた。青空の下で、教会の歴史を説明してくれる白髪のマルティネス神父は、にぎわいグループより5歳ぐらい年上だろうか。神父によると、聖ドミニコ(1170―1221年)の没後、兄マネスが弟ドミニコを偲んで、2年後に生誕の場所に小さな礼拝堂を建設。1266年、ドミニコ派の保護者として知られるアルフォンソ10世が礼拝堂をドミニコ派の教会とすることを決定、1270年には女子修道院が付設された。礼拝堂はその後、増改築を重ね、現在は修道女たちが博物館を兼ねる礼拝堂の維持・管理を担当しているのだという。(注2)

われわれはマルティネス神父に導かれて、一階にある大礼拝堂を見学。さらに、一人がようやく通れるほどの狭い螺旋(らせん)階段を伝って、地下一階部分の「生家」に入った。ワイン庫や台所に挟まれた「博物館」通路を抜けると、祭壇のある礼拝所に出た。

巡礼の旅の推進役、大野進(にぎわい関東地区幹事)が、にぎわいメンバー50人の署名入りTシャツと手拭いをマルティネス神父に手渡し、神父がその二つを大事に抱えて祭壇に奉納。スペイン巡礼の旅最大のイベントは短時間で終わったものの、その一部始終を全員が厳粛な気持で見守り、そして祭壇に向かって黙祷した。

「このTシャツは大切に保管します。ここを訪れる日本の人々に見てもらいます」

マルティネス神父のねぎらいの言葉に、全員がしばし、肩の荷を降ろした気分に浸った。

にぎわいTシャツ奉納式(クリックで拡大)

l   エピソード(1)〜(2)

地下の「生家」には、聖ドミニコの家族が使っていた井戸が保存されており、「この水を飲むと、願いが叶う」(マルティネス神父)と教えられた。神父は3メートルほどの深さの井戸から澄んだ水を汲み上げ、大役を果たし終えた一人一人に飲ませてくれた。冷たい水を飲み干した大野が、安堵の表情を見せている。

「やばかったぞ、本当に」

アムステルダムで乗り替えたイベリア航空の荷物棚に、河井一也(にぎわい関西地区幹事)から託されたTシャツと手ぬぐいを入れた手提げ袋を忘れたことを思い出しているのだった。マドリード空港に到着した時、預かった品を忘れたことに気付き、JTBの吉田君と2人で空港待合室から機内に駆け戻ろうとして係員に制止され、空港事務所に届けて清掃中の機内から無事回収できた。そのことを一人で思い出して、顔をほころばせていた。
聖ドミニコの聖水を受けているところ(クリックで拡大)

トラブル(未遂も含む)はこれだけではなかった。カレルエガ村から戻った夜、夕食後に約半数がマドリードの中心部にあるマヨール広場に出掛けた時、日野大と亀山征二が集団スリの被害に遭った。案内役だったホビノによると、カモを見つけると後をつけ、カギやコインを撒いてカモの注意をそらし、その隙に背後からカモ(注3)の財布を抜き取る「集団スリの典型的な手口」だった。「黒髪で小柄だったから、中南米系でしょう」。旅行中、母国スペインへの愛国者ぶりをいかんなく発揮したホビノが、そう解説してくれた。

所轄の警察署には同夜、マヨール広場で同様のスリ被害に遭った外国人男女(イタリアやドイツなどEU域内出身者がほとんど)が40人ぐらい、被害届を出すために集まっていて、待合室はかなりの混雑ぶり。日野が部屋に入ると、沈み込んでいた“欧州人”から「日本から来たのか」と大歓迎され、全員で記念写真を撮ったのだという。「泥棒に財布を取られて、全員があんなに陽気になれるなんて、信じられません」「人間は不思議です」。警察に同行したホビノは、被害者同盟の連帯ぶりに神父らしからぬ(?)感想を漏らして、次の日の夜になっても、しきりに感心していた。

l   エピソード(3)

22日(木)、グラナダ2泊目。旅の折り返し点も過ぎ、この日は午前中のアルハンブラ宮殿見学から戻った後、休養をかねて自由行動となった。参加者それぞれ、思い思いの過ごし方をしていると、「ホテル・サライ」のフロント周辺が騒がしい。

Q「どしたん」     A「カメさんが、プールで溺れそうになった」

Q「そりゃ大ごとじゃ」

A「かまん。ほかの客がプールに飛び込んで助けてくれた。医者に行かんでもええ」

最近、泳ぎをマスターしようと、自宅近くのプールに通い始めた亀山征二。この日も、夫人を誘ってホテルのプールに入ったが、連日の強行軍で疲れがたまったのか、泳ぎ始めて間もなく、足が痙攣してプール中央でブクブクブク…。そばを泳いでいた夫人まで巻き込みそうになり、たまたまプールサイドにいた客が2人を引き揚げてくれたのだという。

「段々、話がやばくなってきた」と大野。「ウン。新聞製作でいうと、事件続出で古いニュースがドンドン小さくなって行くのと同じパターンだ」と筆者。

しかし、「スペイン巡礼の旅」の参加者は全員、亀山が実体験で示してくれた教訓(君子、危うきに近寄らず−など)を胸に刻んで、心を引き締め、グラナダからバルセロナまでの最終部分を無事故(多分!)でこなし、大野の心配を杞憂(きゆう)に終わらせた。

聖ドミニコ教会の庭での記念写真(クリックで拡大)

l   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

9月30日、全員が関空と成田に無事帰着した日から4日後、九州の玉野正保から参加者全員の気持ちを代弁するメールが届いた。

「11日間は長かったようで短かった、短かったようで長かったという感じ」

「スペイン1国、ホテルは1カ所2泊以上―ゆったりした旅行だったと思うが、限界に近かったような気がします。歳のせいでしょうか?」

「いずれにしても楽しい有意義な旅行でした。特にホビノ神父、大野さんには厚くお礼申し上げます」                           

以上

(注1)   終始一貫してガイド役を務めてくれたホビノによると、スペインではごく

一部を除いて高速料金は無料。

(注2)   修道院特製のクッキーは1箱3.5ユーロ(約500円)。「素朴な甘さ」(関

係者の話)で、お土産に最適。クッキーの売り上げは「カレルエガ教会」の

維持管理費の一部に充てられている。

(注3) 被害者を「カモ」「カモ」と何度も表記しましたが、他意はありません。

(文責・門田衛士)